相続などで不動産を取得したものの、
誰も使わないし、むしろ不要だし、処分したい。
そんな時の考え方を説明します。
前提として「市場価格が低い or ゼロ or マイナス」の不動産です。
“不動産業者が売却に動いてくれないくらいのレベル”
の物件が対象です。
まず、
大原則:基本は隣人
近くに家が建っていて、お隣さんがいる場合は
置き場や駐車場用地にしてくれることがあります。
贈与するものとし、
所有権移転登記の費用や不動産取得税まで肩代わりしてあげれば
もらってくれるかもしれません。
安い金額で売買してもいいです。
いずれにせよ、タダにする代わりに
「元所有者は物件について何ら責任を負いません」
という特約を付して契約書を交わすべきでしょう。
具体的な話に入ります。
まず不要な不動産をいくつかパターン化します。
①更地
②中古戸建
③共有持分
④農地
⑤原野商法の山林
⑥袋地
これくらいでしょうか。
まず①更地。
遠方で不要な土地や、駅から遠い分譲地など。
多くは、昭和40年代の開発ブームの時に数十万円で購入して、
そのまま何もせず今まで来てしまったもの。
あるいは、実家が継いできた土地を相続するケースもあります。
「色々あって、ここの土地持ってるんだよね」
と親から聞かされ困惑する子世代、というパターンです。
これは最悪、1万円とか5万円にすれば売れることがあります。
適法かどうかわかりませんが、
ジモティなどで売りに出している人もいますね。
不動産業者が売却を手伝ってくれる価格帯ではありません。
別途、報酬を渡してお願いをしたり、
多少マイナスを覚悟すれば、売却を支援してくれることもあります。
個人取引はトラブルを招くこともあるので色々ご注意ください。
また、業者名は出しませんが、
金を渡せば引き取ってくれる不動産業者が存在します。
ただし、こういうのは詐欺まがいの業者も多いし、
価格帯も50~300万円くらいと幅広いです。
引き取った土地を適正に管理する業者も稀にありますが、
将来、マンパワー的に割に合わず、破綻しそうな気もします。
そもそも引き取って、一度も草刈りせず放置する会社もあるようです。
最初は引き取り金をもらってプラスなのでしょうけど、
その後、手放せない土地を一生管理できるわけないですよね。
適度に金を運営陣に移した後、会社を倒産させて
不要土地を国庫に押し付けるのかな、などと勝手に思っています。
善悪はさておき、活用してもいいかもしれません。
②中古戸建
建物があると引き取ってくれない業者もいます。
建物が使えるならいいのですが、廃屋のようなものは、
解体する費用で赤字になってしまいます。
古家リノベーションマニアもたまにいますが、
貸家にできないくらい地方の物件だと、かなりどうしようもないです。
隣地が引き取ってくれず、解体費用も出せないようだと、
現実的に放置する他ないのではないでしょうか。
リアルな話、結局、この廃屋をどうにかするのに
「誰かがお金を出さなければいけない」わけです。
自分がお金を出せない・他人も要らない・国も何とかできない、
となれば、現実どうしようもないです。
ぎりぎり利用価値がありそうなら、
①と同じく「ありえないくらい低価格で販売する」ことになります。
安全上の問題がありますので、
道路に接していたり、付近に住民がいる戸建なら
借金してでも解体しておいた方がいいとは思います。
管理不十分で家が崩れ、近隣住民が怪我でもすれば
刑事罰に問われるでしょう。せめて更地にしておけば、
草の管理と固定資産税の問題が残るだけですし、
近隣住民がもらってくれるかもしれません。
※何度も言っていますが、市街化調整区域では、
古家を解体すると再建築困難になる土地があります。
市場価値が出そうな場合は、解体する前に相談してください
③共有持分
現実的に困っている人が多いです。
共有といってもパターンが幾つかあります。
・シンプルに所有権持分で分かれている
・遺産相続がまとまらず遺産共有のケース
・相続登記をさぼって登記できない推定共有の状態
などなど。
基本的に共有物は分割請求ができ、分割請求訴訟を起こし、
最終的に換価分割することになります。
無理やり何とかする余地はあるわけです。
ただし、訴訟にも時間と費用がかかります。
最終的に売却してプラスが出る物件ならいいですが、
市場価値が無い物件の共有持分は、やはりどうしようもありません。
②のように、金を支払って持分を業者に移転することになります。
共有持分買取業者もたくさん存在します。
23区内や主要都市の駅近物件なら、
共有持分を安く買い取ってくれるでしょう。
市場価値が低い物件は、残念ながら相手にしてくれません。
尚、底地と借地の場合は別です。
土地は単独所有、借地上の建物も単独所有ですから、
共有物分割請求はできません。
これらも買取業者はいますから、上記と同様、
市場価値が高い場所の底地・借地なら買い取ってくれます。
ただし訳あり物件扱いなので、金額はめちゃくちゃ安くなります。
通常、田舎の土地だと難しいですが、
岩槻市の住宅地の底地くらいまでは買ってくれたので、
ある程度都市近郊で、更地の所有権価格が坪20万円くらいなら、
業者買取の土台に乗るかもしれません。
共有持分や底地借地の場合は、
共有者がみんなで協力したり、地主と借地人が協力すれば
1つの所有権としてまとまります。そのため、
「みんなで協力すれば高く売れる」
「誰か一人が他の人の分を買い取って単独所有にする」
という方針も成り立ちます。
10件に1件くらいは、これがうまくいくこともあります。
④農地
これが一番やっかいです。
不動産買取業者は農地を購入できません。
農地は、農家(や農業法人)以外は買えません。
農地法の規定で、そもそも所有権移転ができません。
ですので、買取業者が「農地でも買えます」という場合、
ほとんど詐欺のはずです。
仮登記を付けて管理してくれるとしても、
その業者が破綻したり土地を放置した時、
その土地の管理義務を問われるのは元所有者です。
登記簿を見れば、所有者は変わらず元のままですからね。
「農地転用できる(需要がある)土地なら何とか売却できる」
のですが、需要が無い土地はどうしようもありません。
これは本気でどうしようもなくて、
耕作放棄された荒れた土地だと、農家も借りてくれないです。
農地中間管理機構に依頼して、貸したい依頼をしても、
なかなか借り手はいないのです。そりゃそうです。
農家なんて減少する一方ですし、耕作適地は沢山あります。
といったわけで、資金力や労働力が無ければ、
はっきり言って放置するしかありません。
現在の法制度が現実に即していないので、どうしようもないです。
相続を待って、最近できた相続土地国庫帰属制度を利用しましょう。
これは令和5年現在、農地も対象に入っており、
境界確定ができるなら国庫へ帰属させられるようです。
※尚、市町村によって非農地証明書の取り扱いがあれば、
長年の耕作放棄地を農地以外へ地目変更できる場合があります。
あるいは取り扱いが無くても直接法務局へ地目変更を持ち込んで
承認させることもあります。但し、農業振興地域だとかなり厳しいです
⑤原野商法の山林
これはピンからキリまであります。
埼玉など都市圏近郊で、
通路や共有道路を使って土地へ出入りできる土地は、
資材置き場として売却できることがあります。
0円贈与も成り立つかもしれませんし、
多少なりとも手放せる余地はあります。
山奥の山林で、場所の特定すらできない場合。
これは放置するしかないです。
こんなもの、お金を支払って業者に押し付けても仕方ないです。
よほど気になるなら業者行き、そうでなければ放置となります。
「もしかしたら将来分譲地になったり
事業用地になるかもしれないじゃないか」
と思っている所有者もいます。
ところが原野商法の山林は、土地が細切れ分譲されており、
数十年後の現在、大半は所有者不明土地です。
壮大な国家事業が起きて、国家権力で収用してくれるならともかく、
こうなると民間事業者は手が出せません。
ということで、こればかりは金額の問題ではなく、そもそも無理です。
相続土地国家帰属制度を使いたいですが、
場所の特定もできず、隣地も所有者不明土地では、
土地の境界明示ができません。国に押し付けられないでしょう。
次の世代にとって重荷と思うなら、高い金を支払ってでも
不要土地引取業者にお願いすることになります。
ただし、大きくて接道している山林は資材置き場になったり、
膨大な広さの山林は、
太陽光用地・リゾート用地として価値を持つことがあります。
⑥袋地
手前の土地に阻まれた未接道地です。
接道していないため建築不可です。
手前の土地が邪魔なので出入りもできず何もできない、
そんな土地です。市街地でも未だ残っていたりします。
やはり「近隣」がまず最初で、手前の土地所有者が
買ってくれないとどうしようもないことが多いです。
23区内や駅前なら、大規模開発用の”種地”として
業者が買い取ってくれることがあります。
囲繞地通行権などもありますが、
やはり袋地単独では、ほとんど市場価値は無いです。
古家があっても接道長さが2mに及ばず、
建築不可のところもけっこうあります。
接道長さが1.5mや1.8mの場合、
自治体によっては43条2条2項建築許可の対象になることもあるようです。
このあたりは要調査です。
また、手前の土地が売却される時に
一緒に売却してもらう、というのは有効な手です。
一体にすると手放せるかもしれません。
手前の人が代替わりして、実家を建て替えるなどあれば、
その時に買い取ってもらうのも手です。
手前の人とは仲良くしておくとよいでしょう。
最後にしんどいのを追加します。
⑦崖(ガケ)
どうしようもないです。
基本は相当無理です。建築できる場所だとしても、
造成費用がえらい高くつくからです。
一応、2m以上の高低差があれば大体ガケになります。
建築する時は、崖下の土地に迷惑がかからないよう、
土留めの壁を造る必要があります。これが高額なのです。
とはいえ、たとえば大田区や文京区あたり、
土地価格が高い場所の崖下・崖上であれば、
一定の価値を持つことがあります。
むりやり頑張って造成宅地にする需要もあり得るからです。
つまり崖を造成する費用を考慮しても、
市場価値がある立地なら、処分できる可能性があります。
一方、郊外・田舎の場合。
たとえば東松山近隣の某町に、区画整理地のなかの崖地があります。
どうしてああなったのかわかりませんが、
なかなか処分できないわけです。10万円で買っても、
造成費用で1000万円かけることになります。
総額1000万円の崖上・崖下宅地というと、
正直ちょっと手を出せないな、と思うわけです。
ガケでも場所・状態によっては、
低価格売却・0円贈与が可能なことがあります。
以前、住宅団地のそばの崖を5万円で購入してもらいました。
植物の栽培用地として使うのだそうです。
そんなこともあるんですねぇ、と驚いた現場でした。
崩れそうで安全性が危険視されたり、
接道しておらず立入困難な崖は、
やはりどうしようもないと思います。
尚、崖上・崖下に建っている戸建でも、
「安全性が確保されているっぽい」様子なら、
市場価値があります。
東松山でも高坂ニュータウンには崖が多いですよね。
それでも通常に取引されています。
⑧産業廃棄物やゴミの山の土地・埋設物ありの土地・土壌汚染の土地
たまに県道沿いなどで見かける、
「なんか山みたいになってるなぁ」という土地は、
だいたい昔、残土やら産廃やらを捨てていった場所です。
また、コンクリートガラや公共事業の産廃を地中に埋めた土地。
こういうのも県道沿い・国道沿いに多いですね。
相続した次世代が知らされていないことがあり、トラブルになります。
あるいは工場跡地・ガソリンスタンド跡地・昔のクリーニング屋跡地。
こういうのは薬物で土壌汚染されていることがあります。
薬品・有機化合物まみれの土地、というわけです。
こういう土地は
①すべてキレイにする費用を考慮しても価値がある
②そのまま利用する価値がある
なら処分可能、となります。
①は大規模な土地で、マンションやショッピングモールになる場合など。
②はそのまま資材置き場にする場合です。
ただし不動産売買するにせよ贈与するにせよ、
「知りながら告げなかったこと」は損害賠償につながります。
「埋まってるよ」「汚染されてるよ」と契約書に明記して取引しましょう。
売買するなら事前に地中調査のうえ、
必要に応じてそれらの撤去・処分を行ったうえで売却するか、
「色々埋まってるかもしれないけど一切売主は責任を負いません。
買主が頑張ってください」
という合意形成のもと売買します。
特に土壌汚染の土地は、
近隣の土地への汚染拡大・あるいは水質汚染にもつながり
甚大な責任を求められる恐れがあります。
注意して売買する必要があるでしょう。
不要物件の処分をボランティアで手伝うことがたまにあります。
現実、どうあがいても無理な土地は多いです。
特に農地は難しいです。
埼玉県では農地の開発許可基準が厳格化され、
特に農業振興地域など1種農地の宅地転用が相当厳しくなりました。
ほぼ無理じゃね?というレベルです。
また、引き取りサービス業者にも
詐欺的な話をよく聞きます。
先日土地の相談を受けましたが、
「200万円くれたら引き取る」と業者に言われたそうです。
でもその土地は農地です。どうやって引き取るのでしょうか?
結局、その土地は100万円程度なら
住宅転用可能な農地として売れると思いますので、
売却方面で話を進めています。
そんなわけで、
とりあえず「本当に引き取りサービスしかないのか?」という
確認のご相談くらいは頂けると嬉しいです。
どうしようもない土地なら、
正直に「どうしようもないです」とお伝えしますので・・・