相続登記の義務化と所有者不明土地に関する法改正



数字で見ると結構リアルなのですが、
令和元年度での日本の死亡者数は約138万人です。


日本では死亡者数が年々増加しており、
昭和58年には約74万人の死亡者数ですから、
40年足らずで倍増しています。



死因のベスト3は「悪性腫瘍」「心疾患」「老衰」とのことで、
多くは第1次ベビーブーム(昭和22~24年)に
生まれた高齢者の死亡によるものです。
自然減少、ということですね。



そんな死亡者数138万人のうち、
相続税が課税された件数は約11万件。


相続税がかかるのは全体の約8%、ということです。



相続税が発生すると、税理士が関与するか、
相続人自ら相続税の申告書を作成します。
相続発生から4ヶ月以内の準確定申告、
10ヶ月以内の相続税申告、と期限も定められます。


必然的に、納税義務者は相続手続きへの関心が高くなります。



相続が発生すると不動産は相続人へ引き継がれますが、
引き継いだ不動産の名義換え(相続登記)
相続税の申告手続きの流れに合わせて
税理士などにアドバイスされて手配することが多いです。



逆に、相続税が発生しない場合。
つまり全体のうち92%、
127万人の死亡については相続税が発生しません。



この場合、相続人達が自発的に動いて


①遺産分割の決定
②遺産分割協議書の作成
③不動産・金融資産等の名義換え


これらを手配することになります。

※遺言書がある場合は別



相続税が発生しないケースでは、
基本的に「いつまで」という期限がありません。


遺言書が無いと、相続割合で揉めることが多く、
不動産についてはデリケートな話題だったりするため、


「金融資産は名義換えしてみんなで分けるけど、
不動産の相続登記は放置する」


という例が結構多いのです。
問題の先送りです。



最近の40代以上の方は関心が高く、
“相続登記を放置”ということに危機感を抱いています。


それでもやはり、色々な理由で話し合いがまとまらず、
なんだかんだ数年経過してしまう例が散見されます。



手をこまねいているうちに、
相続人にも相続が発生してしまい、
相続分が分散してしまうと色々大変です。



放置して60年、気が付いたら相続人が26人、
うち1人は行方不明、1人は国外、2人は認知症

という例が先日ありました。


こういう話は司法書士先生に聞くと、
苦労話(とそれを如何に解決したかという先生の英雄譚)を
山ほど教えてくれます。



さて、相続人が行方不明の場合、
遺産共有の解消のため遺産分割調停を申し立てて
行方不明者を家庭裁判所へ呼び出すか、
完全に行方知らずであれば、不在者財産管理人を選任します。
どちらにせよ裁判所の関与があります。



認知症であれば成年後見人を立ててもらいますが、
成年後見人は後見後、ずっと監督義務がありますから、
亡くなるまでの監督義務と監督報酬が発生します。
後見人を立てようと思っても簡単ではないのですね。


その後、遺産分割調停(ダメなら審判)により
処理していくことになります。
これも裁判所が関わってきます。


成年後見が必要だと永続的な責任が発生するため、
やはりデリケートな問題になります。



共有物は分割請求できるものですから、
裁判所を通せば収まるところに収まります。
結局、お金と手間と時間がかかる、
というのが一番の問題です。



また、遺産分割の延長上で裁判所を通すと、
家庭裁判所に呼び出されるのはあなたの親族です。
「あいつ、財産欲しさに親戚を裁判所に呼び出したんだぜ」
みたいな話が親族間で広まったりするかもしれないわけで、
それはそれはデリケートな話なのです。



さて、ざっくりまとめると
「所有者不明土地は裁判所行き」
というケースが多いです。


数千万円、数億円の土地ならまだしも、
地方の10万円、100万円の土地のために
そこまでしたくないですね。



そのため、相続人にとってどうでもいい土地は
相続登記が行われず放置され、
所有者不明土地が増えていきました。



令和2年の国交省調査によれば、
日本の不動産のうち所有者不明土地は24%
その原因は相続登記の未了が63%、
住所変更登記の未了が33%とのことです。



人口減少社会で郊外は土地活用の見込がありません。
田舎の土地は活用されないまま放置されていく一方です。


農地法に保護され所有権移転もままならない農地は
本格的に放棄されていきます。



そんな状況下、所有者不明土地は増加する一方です。
そこで国は「相続登記の義務化」へ向けて動いていきます。



不動産登記法の改正は交付されており、
令和6年4月1日から施行されます。


相続を知った日から3年以内に相続登記を行わないものは
10万円以下の過料に処されます。


過料というのは刑事罰です。
ただし前科はつきません。罰金みたいなものです。



この時、問題になるのは


「相続で揉めていて遺産分割が決まっていない物件」


です。
誰が相続するか決まっていない不動産ですね。
普通は相続人が確定していないと相続登記ができません。


そこで、揉めている相続については
「相続人申告登記」というものを行います。
相続割合とは関係なく、「私は所有者の相続人です」
ということを申し出る登記になります。


これには持分割合は記載されません。
所有権を主張するものではなく、
連絡先を登記するようなイメージですね。



相続登記の促進措置として、
価額100万円以下の土地の相続登記は
登録免許税を非課税とする改正も行われました。



ここまではよく知られている話ですが、
他にも「所有者不明土地」「相続登記未了土地」への
対処は進んでいます。



・住所変更登記の義務化


令和8年4月までに施行。
住所変更日から2年以内に住所の変更登記を行うことが義務化。
(申告漏れには過料の罰則あり)

※登記官による職権変更登記もできるようにする



・相続土地国庫帰属法の施行


令和5年4月27日までに施行。
土地管理費相当額10年分を徴収することで国庫へ帰属可能に。



・共有物の利用を円滑化


令和5年4月1日施行。
行方不明者がいる共有土地について、
不明共有者の持分価額に相当する金銭を供託することで、
不明者の持分を取得できる。



・遺産分割協議の期限設定


令和5年4月1日施行。
相続開始から10年を経過した土地は、
法定相続割合で相続したものとされる。





「住所変更登記の義務化」ですが、
相続登記の義務化に隠れて忘れがちです。
過料に処されるとのことですから気を付けましょう。


「遺産分割協議の期限設定」は実務的にありがたい制度。
揉めてもいいけど10年までね、ということです。


「相続土地国庫帰属法」は、
「相続した要らない土地を国に押し付けることができる」
制度なので、待ちに待った制度かもしれません。


とはいえ「お金を支払って国へ帰属させる」必要があり、
何より「境界確定」が必要なため、
最低でも原野で60~100万円、
宅地で100~150万円は費用が発生しそうです。


山奥の土地など、隣地所有者が立ち会ってくれず、
境界が確定しなければ費用倒れに終わります。


土地上に建物や工作物がある場合、土壌汚染・埋設物がある場合、
崖地や他者が利用している土地等は国庫へ帰属できません。


また、国庫へ帰属させるには法務大臣の「承認」が必要です。
審査に通らなければ帰属させられません。



不要土地の国庫帰属については、
とにかく境界確定が重たい負担ですから
正直そこまで広まるようには思いません。
放置しておいた方がマシ、と考える人が多いでしょう。



以上のように、
国は所有者不明土地への対処に本気で取り組んでいます。
改善の余地はまだまだありますが、
「所有者不明土地の放置を何とかしよう」という気概を感じます。



売れる土地・売れない土地・
意外と価値がある土地・どうしようもない土地と、
世の中にはいろんな土地があります。

市場価値としてはどうしようもない土地も沢山ありますが、
ご相談頂ければ、調べた上で
「これは本当にどうしようもないです」と正直にお伝えします。


国庫へ帰属させずとも、処分できる土地があるかもしれません。
少しはお金になるかもしれません。
赤字で処分するのは本当に最終手段ですから、
そのまえに一度ご相談頂ければ幸いです。

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