土地の購入を考えているお客様が、
たまにこういうことをおっしゃいます。
目ぼしい土地が出てきて、
本格的に検討しようか、という場面。
「じゃあ、この土地を仮契約したいです」
もしくは、
よい土地が見つかり、
よし買うぞ、という気持ちになって申込をする場面。
「あとは仮契約して、ローンがOKになったら契約ですね」
不動産会社の担当は「???」と思いながら、
スルーしていますが、毎度思います。
仮契約ってなんでしょう?
そもそも契約は契約です。
仮契約なんていう法律行為は存在しません。
「仮」だったら「契約」じゃないじゃん。
そう思っているわけです。
お客様の気持ちはよくわかります。
今までの人生では
契約=すぐにモノを受け取る
だったからです。
携帯電話を契約すれば、
多くの場合、その日に本体がもらえますね。
コンビニで商品を買うのも、
法的には毎回毎回売買契約しているのですが、
これだって、
契約=すぐに商品を受け取る
こうなります。
売買契約=売買代金全額を支払うと同時に商品を受け取る
これが一般的なイメージなのです。
ところが不動産取引は違います。
契約=「この金額・条件であなたと売買します」という“約束”
不動産の売買契約とは約束のこと。
不動産取引では多くの場合、
契約≠売買代金全額を支払う
なのです。
契約書に署名捺印するだけでは物件は自分のものになりません。
その意味で「契約は仮のもの」という感覚は理解できなくもないです。
一般的な不動産売買の流れはこんな感じ。

売買契約によって、売主は「あなたに売ります」と約束します。
いっぽう買主は「この物件を買います」と約束し、
その気持ちの表れとして手付金を支払います。
※実際は解約手付として機能します
その後、改めて別の日取りを設定して、
残りの代金全額を支払い所有権を移転します。
これを「決済」あるいは「決済引き渡し」といいます。
なぜ”契約”と”決済”を分けるか。
それは、売主にも買主にも
“引き渡し条件を満たす”必要があるからです。
売主の条件として、
“隣地との境界を確定する”ことを求められることが多いです。
これには30~50万円くらいかかります。
買主が決まっていない段階から
前もって測量費用を出してくれる売主は少ないです。
そのため売買契約後、引渡しまでに確定測量する必要があります。
買主の方も条件があって、
そもそもローンの本申込が通らないと
本当に土地を買うお金が出るかどうかわかりません。
お金が出ないのでは買うことができません。
したがって、ローンの本承認が出たら、
“引渡し条件=お金を支払える” を満たしたことになります。
結局、物件をひとつに決めた後、
契約してから、売主・買主それぞれ条件を満たすために活動します。
双方とも条件が成就したら、
やっと引き渡しができるようになります。
そのため、不動産取引では
契約と残代金決済が分かれることが多いのです。
さて、仮契約の話に戻ります。
買主が”仮契約”と呼ぶのは、
誰かが「仮契約」という言葉を使っていたからです。
よくあるのはハウスメーカーの営業。
土地から新築を建てるのに、ハウスメーカーを選びますよね。
東松山でも松葉町に住宅展示場があります。
積水やら桧家やらアキュラやら何やら、
色んなメーカーを回って建築会社を選びます。
最終的に「この会社で建てます」となったとき、
ハウスメーカーとの間に結ぶのが、請負契約。
請負契約を結んだら、もう他の会社にチェンジできません、ということです。
逆に言えば、請負契約を結ぶまでは
複数のハウスメーカーを天秤にかける余地があります。
ハウスメーカーの側も、利益になるかわからないお客様に対して
何回もラフプランを練ったり、設計士に調査させたり、
3度も4度も見積もりを作ったりと、経費をかけることはできません。
実際さんざん連れまわされた挙句、
他の会社にお客様を取られてしまうのは避けたい。
そこで、何度か打ち合わせを行い、
話が煮詰まったところで、ハウスメーカーから
「ひとまずここで仮契約しましょう」
と、話を持ち掛けられることがあります。
「キャンセルできますから~」とか
「仮契約しないと先の話ができないんですよね~」とか
色々言われて、あーまぁそういうもんかな、
と思って仮契約するようです。
申込金として数十万円を支払うこともあります。
後からキャンセルしようとしても、
申込金を返してもらうのに、かなり苦労します。
昨年、お客様が実際に被害にあっていました。
某坂戸の某不動産会社でしたけど。
お金返してもらえたんだろうか。
さて、土地購入の場面ではこんな言い回しも聞かれます。
「まずは仮契約して、ローンが通ったあとに本契約ですよね」
「仮契約したら物件を押さえられるんですよね」
これもハウスメーカー経由で言葉を覚えたのでしょうか。
“仮契約”だったら押さえるも何もないじゃん、と思ってしまいます。
すべての契約は”本契約”です。
さて実際に「この土地を買いたい」となった時、何をするのか。
まず最初に「購入の申込」を行います。
「買付証明書」などという書面を書かされます。
「こういう金額・こういう条件で買いたいです」という意思表示になります。
買主にとっての心配は
「申込書を書いたら、物件は他の人に取られないの?もう大丈夫?」
ということです。
良い土地は競争が激しく、
早い者勝ちになる場面もあります。
新築住宅を検討する方は、とにかく土地が決まらないと
具体的な建物プランを入れられません。
はやく建築予定地を確定させたいのです。
で、結論から言うと申込しただけでは物件は押さえられません。
申込だろうが買付証明だろうが、これは「買います」と言っているだけ。
売主にこの書面が届いて
売主が「この条件であなたに売ります」といえば、
一応、物件を押さえたことになるでしょう。
とはいえ、これも法的拘束力としては相当弱い。
あなたの申込金額より
100万円高い申込が後から来たらどうしましょう?
あなたはローン購入だからローン解除になるかもしれない。
他の申込は現金購入で確実に買ってくれる、ということだったら?
もっと言えば、売買の交渉がまとまった段階で
売主の子供が「その土地、僕が家建てるのに使わせて」と言ってきたら?
それこそ契約前日に
「申し訳ないんだけど、やっぱり売るのやめます」と言われることもあるのです。
“言ったよね?この前売るって言ったよね!?”と責め立てたところで、
それで訴訟で勝てるでしょうか。難しそうです。
1番手だとか2番手だとかいう言葉もありますが、
結局、申込したところでどうなるかわからないのが現実。
不動産売買は何が起こるかわかりません。
売主が「やっぱりやめたわ」と言い出したら、
そこからひっくり返すのは相当難しい。
売主の心変わりは不動産営業にとっても恐ろしいものです。
だからこそ”売買契約”を結びます。
法的に「あなたに」「この金額で」「この条件で」「売ります」
ということを約束し、書面でその証拠を残すのです。
私の感覚では、この段階で初めて「物件を押さえた」ことになります。
※恐ろしいことに、契約した後で「やっぱり無しにできない?」
とか言い出す方も、ごく稀にいらっしゃいます。ダメです
ちなみに某ローコストメーカーさんが言ってましたけど、
彼曰く、お客様に案内している“仮契約”。
その契約文書のタイトルは「工事請負契約」なのだそうです。
“本契約”の方は「工事変更契約」なのですって。
つまり
仮契約=請負契約
本契約=請負契約の変更契約
ということです。
ぜんぜん仮契約ではないのです。
思いっきり本契約させられていますね。
これ、言葉のアヤでお客様を錯覚させていますので、
明らかに錯誤無効にできそうな話なのですが、
そうはいっても契約は契約。
いちど署名捺印してお金を支払ってしまえば、
お客様も簡単に断れなくなる。
そういう心理効果を狙ったものです。
現代の大手ハウスメーカーではこんなことないでしょうけど、
おそらく中小工務店・ローコスト系では、
まだこういう手法でお客様を誘引しているかもしれません。
結論。仮契約なんてありません。
署名捺印する前に
「解除できるか・解除したらどうなるか」
営業さんに十分確認してくださいね。