不動産売却 一括査定とわたし



さて、あなたがご所有の不動産を売却したいとか、
価値が知りたいと思ったとします。



とりあえずインターネットで検索してみるはずです。
そこで「不動産 売却」で検索してみましょう。こんな感じです。


一括査定という言葉が出てきますね。


これは、ご所有の不動産情報を入力して査定ボタンを押せば、
複数の不動産会社に情報が行って、
沢山の会社が査定をしてくれる、というものです。


不動産テックなどといいますが、
不動産業+IT みたいな分野が流行らしく、
昨今、一括査定サイトが山のように増えています。


たとえば都内の不動産で一括査定をやってみると、
その情報は10~20社くらいの不動産会社に届きます。
「一括査定ボタン」を押したら、その数分後には電話が鳴り響きます


東松山の物件でも3~8社くらいには届くでしょうか。
情報が届いた瞬間、とにかく反射的に電話がかかってきます。


「連絡はメールでお願いします」と注意書きしても、
多くの不動産会社は、まず電話をかけてきます。



ほんの軽い気持ちで「査定!」を押してみたら、
その後1ヶ月~3ヶ月は継続的に電話が来るでしょう。
あなたが「売却をお願いします」と言ってくれるまで


あるいは「間違いでした」とか
「軽い気持ちだったので数年は売りません」とか、
結論がはっきりするまで不動産会社に追いかけられます。



電話をかける不動産会社の営業さんの気持ちはこんな感じです。



「メールで連絡しても読まないかもしれない。
何も伝わらない。まずは電話だ。
とにかく電話でアポを取って一度会うこと。
会って話せばあとはトークで何とでもできる」



だいたいの不動産会社はこんなノリです。
迷惑がられたら謝ればいいだけです。


個人情報が向こうの手に渡りますから、
ダイレクトメールや営業メールが定期的に届くかもしれません。
あなたは沢山の会社から、顧客リストに追加されることでしょう。




今回は一括査定について、不動産業者の視点から考えてみましょう。



売買を取り扱う不動産会社にとって、
大切なのは「売ります」「買います」という案件です。
そもそも、そういった話が無いと
何の仕事もありませんし、なんの利益もありません。
社員の給料も支払えません。


不動産業者というのは手数料商売です。
取引が生じて、その取引の仲介を行って手数料を頂くのが基本です。


また不動産仲介の仕事というのは、あくまで成功報酬です。
取引が成立して、やっと報酬をもらえます。


どんなに頑張っても、お客様と仲良くなっても、
取引が成立しない限り手数料はもらえません。
営業社員の成績はゼロです。
営業社員は毎週のように上司からこっぴどく詰められることでしょう。



売却案件は、不動産業者にとって
手数料に近い、ありがたい仕事といえます。


なぜなら、いちど売却をお願いされてしまえば、
購入者がどこの不動産会社からの紹介であろうと、
確実に売主から手数料がもらえる。
ですから売却案件は、手数料をもらえる見込の高い案件なのです。
ぜひとも預かりたいのです。


その入り口となる一括査定。
複数業者との激しい競合を乗り越え、なんとか物件を預かりたい。


不動産業者の考え方はこうです。


早急にお客様とコンタクトを取り、直接話してグリップを掴む。
できれば、会ったその場で媒介契約にサインをもらうこと。
物件売却をお願いされれば、継続的に付き合いが生まれる、
「とにかく販売契約(媒介契約)を結ぶことが最優先」。



そんなわけで、一括査定の場では、
不動産業者の行動原理は「売ってもらうこと」
これだけなのです。



少し話はそれますが、例え話をしましょう。
あなたが所有している不動産に対して3社がそれぞれ以下のように言っています。

A社「3000万円ですね」
B社「4000万円です」
C社「5000万円でいけます」



さて、あなたはどの会社に売却をお願いしますか?


それはもちろんC社ですよね。
そんなに高く査定してくれるなんて・・・と思うはずです。


この3社、それぞれ言っていることは違いますが、
実のところ、正解は何一つありません。


それぞれ、過去の事例や取引相場を見ていますが、
最終的に「こう思う」と推測しているだけです。


あえて言いますが、
査定価格なんていうのは営業さんそれぞれの感想に過ぎません。


不動産価格査定書の中身を見ると、
何らかの科学的な計算をしているように見えます。


しかし統一された、明白な評価基準は存在しません。
各種の補正率は、営業の思うままに操作できます。


相場、というのはありますが、これも各営業さんによって価値観は違います。
不動産査定というものに定められたルール・計算規則が存在しない以上、
評価方法も人それぞれ、価格も人それぞれ。
恣意的に操作できるものなのです。



たとえば私が1500万円だと思った不動産が
2000万円で売れたこともあります。


逆に、他社から1400万円だと言われて売りに出したものの、
まったく売れずに2年経過。
結局、弊社が販売を代わって最終的に決まったのは、850万円。
そんなこともありました。よくある光景なのです。



不動産鑑定評価、公示地価、相続税評価額、固定資産税評価額etc…



様々な角度から、ひとつの不動産に異なった価格がつけられます。
つまり、不動産に確実な価格査定なんてありえません


タダでも要らないと思っていた土地が、
隣人にとって1000万円の価値があるケースだってありますからね。


※隣地の小さい土地をくっつければ2m接道を確保できる場合など



さきほどのA社、B社、C社。
どうしてこんなに価格に違いが出るのか。
それは要するに、


「実際に売れた価格が査定と違っても、不動産業者は何も責任を負わないから」


です。言いたい放題なのです。



さて、あなたの不動産がC社に5000万円と評価されたことは、
あなたにとってかなり嬉しいようです。


そのため、一括査定の現場では「とりあえず高いこと言って預かる」
という営業手法がよく使われます。



ちょっと変則事例ですが、こんなことがありました。


とあるアパートの売却査定依頼があり、3社が競合していました。
その中の1社が私でした。


結論から言うと、私は競合に負け、
アパートの売却は大手不動産会社に任されることになったのです。


どうして大手不動産会社は物件を預かれたのか。


実はアパートの売主は他に土地を持っており、
そちらについても、かるーく査定価格を聞かれていました。


大きい土地でしたが、物件の周辺状況が悪く、
2000万円でも売れないような土地です。
私は正直に「1500~2000万円くらいです。売れるのに時間もかかります」
とお伝えしました。


一方、大手不動産会社さんは、この土地を4000万円で売るといいました。
売主は大いに喜び、それが決め手となりました。
アパートの販売契約(専任媒介契約)は大手不動産会社のものです。


結局、アパートは普通の価格でしたが、
大きな土地は明らかに見当はずれな価格で販売されることになりました。


ちなみにこの土地。
4000万円で売りに出して、当然ながら1年以上売れないまま、
結局売るのを諦めてしまったようです。


アパートの方は、幸運なことに私が買主を見つけ、
大手さんとの共同仲介で売買となりました。
苦笑いでしたが、満足いく価格だったようで円満な契約風景でした。



さて、この一連の流れ。大手不動産会社は決して嘘をついていません。
何度も言いますが、不動産の価格なんてわからないのです。


「もしかしたら謎の大富豪が1億円で買ってくれるかもしれないじゃないか」


といわれて完全に否定することは誰にもできません。


ならば、ひとまず良いことを言っておいて物件を預り、
あとから少しずつネガティブなことを伝えて
ちょっとずつ値段を下げてもらえばいいのです。


一度物件を預かると、売主と継続的な関係が生まれます。
“仲良くなってしまえば、後からどうとでもなる”という考えなのです。

だから無責任に4000万円などと言えたわけです。




一括査定に話を戻しましょう。
実は、一括査定に登録している不動産会社は、
問い合わせが1件あるたびに課金されています。


かるーい気持ちであなたが問い合わせをしたら、
下手すれば10社からの不動産会社が、
それなりの料金を査定サイト運営会社に支払っています。


つまり不動産会社は、既に経費が発生している。
ということは、このお金を回収しないといけません。
だから必死に架電するのです。



一括査定サイトは、軽い気持ちで問い合わせできますから、
様々な目的で利用されています。


そもそも売る気はないんだけど、なんとなく今の相場が知りたいだけ。
・自分の土地ではないのだけど、実家の土地がいくらか知りたい。
・最近買った家を査定するといくらになるか試してみたい。


こんな軽い気持ちでも一括査定は利用できます。
あるいは、こういう場合はまだいいかもしれません。


・不動産を誰に相続させるか参考にするため。
・離婚の財産分与の参考価格に使いたいから。
・住み替えを考えていて、売却する金額を元手にしたい


こんな重大な事情があったとしても、
不動産会社は本気でかかってきます。
つまり、本気でお世辞を使ってきます
とりあえず高いこと言ってくるわけです。



するとお客様にとっては悲しい事態が起こることがあります。
高すぎる、“売れない金額”を基準にして離婚の話し合いをしたり、
遺言書を作成したり、住み替え先を探したりすることになります。


これは悲劇です。ご本人の想定と食い違いが起きてしまいます。
下手すれば、1000万円単位での間違いを犯します。
のちのちのトラブルの原因になるかもしれませんね。


※離婚や相続の現場では、当事者同士が不動産会社の査定書を出し合って
「この物件はいくらだ!」「いいやもっと高い!」と争うことがあります



不動産会社のこうした姿勢を攻めたいとも思いません。
彼らは営業です。数字上げてナンボです。
どんなに正確に不動産査定ができたところで、
売上を立てられなければ即解雇。そんな戦場に生きています。


そんなわけで、
お客様が軽い気持ちで一括査定ボタンを押している一方、
不動産会社の中では激しい競争が行われているというわけです。




さて、いい人っぽく書いていますが、
一括査定の時は、私も似たような対応をします。
どうしてもお世辞っぽくしないと話が続きません。


とはいえ無責任なことはも言えませんので、
後ろめたさや疚しさと葛藤の末、こんな感じの話し方になります。


「〇〇〇万円くらいで売れた事例があります。
一般的な価格(3ヶ月~半年くらいで売れる)は△△△万円くらいだと思います。
ただ最悪は✕✕✕万円です。」

「ここ数年は取引価格が高く推移していますから、
急がないなら、ひとまず◇◇◇万円で売りに出してみましょうか」


価格についてはこんなところです。


そのあと、法的制限がどうだとか、所得税がどうだとか伝えます。
細かい事情を教えて頂けた場合はそれに合わせて、
売却の前に考慮すべきことを付け足します。



さて、こういう眠たいことをぐだぐだ言われるのと、


「□□□万円(私のお世辞より200万円くらい高い)で売れます」

「いますぐ紹介したいお客様がいますからやらせてください」


こんな感じでキッパリ言い切る人と、
実際の現場ではどちらが勝つでしょうか。


けっきょく勝つのは

“自信あるしゃべり方”
“言い切る力”


みたいなものでして、
残念ながら私は、一括査定からお仕事を頂戴するのが下手っぴです。



そんなわけで、不動産会社から見た一括査定についてご説明してみました。

ここからは一般の方向け。私が思う一括査定の賢い使い方です。



・査定会社を絞ろう


問い合わせ先を選べる場合は、3~5社くらいまででいいと思います。
2社のみにして、個別に丁寧に対応してもらう、というのも良いです。
流れ作業で一括査定に対応していると、不動産業者にも雑に対応されてしまいます。


・電話が面倒なら最初に書いてしまおう


「仕事のため電話は一切出られません。メールでお願いします」
と書いてしまえば、さすがに電話してこないです。
電話してきたら「いま忙しいのでメールでお願いします」と応えましょう。


・住所、地番、建物の概要は正確に


不動産会社が場所を特定できると話が早いです。


・個別の事情を正直に


たとえば昔に自殺があったとか、
特別な売却理由がある際は、最初に書いておいた方がいいです。


・返事はきっちり返しておこう


メールが来たら、簡潔でも返事を返しておきましょう。
それに対する反応で、さらに担当の良し悪しがわかります。


・会社ではなく担当で考えよう


不動産の仕事は営業個人によって良し悪しが変わります。
喋りは上手いがトラブルだらけのイケイケ営業さんは避けましょう。
一般的に、小さすぎる会社は避けるべきです。


・価格だけではなく安全を考えよう


不動産の売買は、ご想像以上にトラブルが多いです。
ケースによっては、裁判に発展することもある世界です。
査定価格は参考程度にして、”注意深い”担当を選んだ方がいいです。
実際の販売価格は「不動産屋ではなく私が決める」くらいの感覚でいいと思います。





最後に「一括査定に対する、不動産会社の本音」を話しましょう。


不動産会社は、あくまで売却案件を得るために一括査定サイトへ登録しています。
つまり、不動産会社にとって一括査定の問い合わせは
「売却の問い合わせ」なのです。

あなたがどんな理由を書いても、不動産会社の考えは同じです。
人件費を使い、登記簿を取得し、交通費を使い、役所調査を行い、
時には査定書まで作るのです。ボランティアではありません。


「売却の問い合わせ」が前提だから、査定サイトから課金されているし、
経費を取り返すために、鬼のような電話がかかってくるのです。
つまり不動産会社サイドから考えると、
しつこい営業かけられて当然なのです。


ですから、逆にいえば


売却前提ではないのに一括査定で問い合わせしないで欲しい


これが偽らざる不動産会社の本音だと思います。



実際、軽い問合せばかりの査定サイトから、不動産会社は離れていきます。


問い合わせ件数が多いのに成約件数が少ない。
それは要するに、手間暇ばかりかかるが
1円も回収できない査定サイト、ということです。

不動産会社にとって何の意味もありません。


査定サイトの方も、確度(訪問率・成約率)が高い問合せを得られるよう、
皆様の見えないところで様々な工夫をこらしています。
そうした様々な思惑の結果、皆様の1クリックが生まれるわけです。



付け加えておくと。
不動産に絡む話は、かなり重要な個人情報が含まれます。


誰に届くかわからない一括査定で
デリケートな個人情報をばらまくより、
会社の問い合わせフォーム
直接お問い合わせ頂く方が良いのでは、と思います。


電話でもメールでも、気軽に問い合わせてくだされば、
時間の許す限り、きっちり調べてご回答させて頂いております。
弊社でなくても、大抵の会社で無碍な扱いはされないはずです。


また会社への直接連絡ですと、
不動産会社の方も「他社と競合している」という焦りが無くなります。
そのため、しつこい営業電話をしない傾向にあります。


私の個人的な感覚としては、
お客様にご連絡するなら何かプラスの情報がある時にしたいわけで、
必要なければ営業電話なんかしたくないです。ご迷惑ですから。



一括査定というシステムは素晴らしく、
弊社もたまに利用させて頂いています。

その一方で
「ちょっとこれは営業さんに色々言われて変な方向に行ってるなぁ」
と感じることが多々ありましたので、
少し詳しくご説明させて頂きました。


不動産会社の裏話程度に、ご参考ください。

一括査定で負けが多いから愚痴っているわけではありません!

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